世界のはじまり―変化

 ヒトが誕生してから200数年経ったあたりから上界人たちの権力争いは熾烈を極め、とくに尚聖という男の存在により、世界は歪な様相を呈することとなった。実はそのころ、鈞天では「水城家(みなぎけ)」と「火撫家(ひなずけ)」の2大勢力が袂を分かっていた。
 尚聖は「水城」側の頭首であり、また『神仙』の称号を得た実力者であった。次第に火撫家の頭首との神権争奪による“ひずみ”は国王一族による治世に影響を及ぼすまでになり、結果、国王の死後は誰も彼らを抑える者がいなくなってしまった。

 中央を位置する鈞天とその周辺の地界との間に一種の亀裂が生じたのは、それからまもなくのことだった。
 絶え間なく続く戦争に嫌気をさして抜け出た上界人たちが、地界の4つの地域にそれぞれ散らばり、力あるものが統治者となった。そして彼らは自分たちの世界を護るべく結界を張り、鈞天との関わりを一切絶ったのである。結果的に鈞天は真ん中で孤立する状態となった。

 鈞天での凄惨な争いに巻き込まれたひとびとの恐怖や絶望、おびただしい数の血肉から“悪気”が生まれ、それらが寄り集まって『魔の霧』となって鈞天全土を覆ったのは、尚聖が火撫を打ち破って空席であった国王の座に就いたあたりだった。それは別名『魔境』と呼ばれ、触れる者の肉体だけでなく魂まで消滅せしめる恐ろしい霧状の闇の世界であった。