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crystal-pro2 [2022/11/18 11:51] – 作成 kitsugin | crystal-pro2 [2022/11/18 12:04] (現在) – kitsugin | ||
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- | ぼくには兄がいた。 | + | == プロローグ・2 == |
- | 双子で背格好や見た目が殆ど変わらないのに、兄はぼくよりも聡明で好奇心旺盛、そして何事においても常に先だって飲み込みが早く、ぼくと言えばいつも彼の背の後ろにうずくまって、こっそりと周囲をうかがうような日々を過ごしていた。 | ||
- | 両親は国を統治する権力者ゆえに、ぼくたち兄弟も一般的な勉学のほか政道に通ずる学問、哲学なども修学していた。学ぶことに於いては別段苦手意識もなかったが、将来この国を継ぐのは兄の方だろうとやんわり思いかすめており、ぼくとしては政(まつりごと)には一切関心をもてなかった。 | + | ぼくには兄がいた。 |
- | あるとき兄は、一般的に開放していない筈の書庫にぼくを呼び出した。周囲に見つかるとどんな叱責をうけるか判らないため、身の縮む思いで奥間に入ると、きらり、と目に一筋の光が差し込んできた。思わず片手で目の前を覆うほどの眩しさに唸ると、兄は軽く微笑んだ。\\ | + | 双子で背格好や見た目が殆ど変わらないのに、兄はぼくよりも聡明で好奇心旺盛、そして何事においても常に先だって飲み込みが早く、ぼくと言えばいつも彼の背の後ろにうずくまって、こっそりと周囲をうかがうような日々を過ごしていた。 |
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+ | 両親は国を統治する権力者ゆえに、ぼくたち兄弟も一般的な勉学のほか政道に通ずる学問、哲学なども修学していた。学ぶことに於いては別段苦手意識もなかったが、将来この国を継ぐのは兄の方だろうとやんわり思いかすめており、ぼくとしては政(まつりごと)には一切関心をもてなかった。 | ||
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+ | あるとき兄は、一般的に開放していない筈の書庫にぼくを呼び出した。周囲に見つかるとどんな叱責をうけるか判らないため、身の縮む思いで奥間に入ると、きらり、と目に一筋の光が差し込んできた。思わず片手で目の前を覆うほどの眩しさに唸ると、兄は軽く微笑んだ。\\ | ||
「まだ、誰にも言うなよ?」\\ | 「まだ、誰にも言うなよ?」\\ | ||
- | 少しくぐもった声質に変わり、いつになく真剣な眼差しをその光のほうへ向ける。彼の視線の先には、光に包まれたひとつの丸い球が掌の上に鎮座していた。\\ | + | 少しくぐもった声質に変わり、いつになく真剣な眼差しをその光のほうへ向ける。彼の視線の先には、光に包まれたひとつの丸い球が掌の上に鎮座していた。\\ |
「水晶玉??」\\ | 「水晶玉??」\\ | ||
思わず声が漏れた。兄はうなずく。\\ | 思わず声が漏れた。兄はうなずく。\\ | ||
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「あ、?」\\ | 「あ、?」\\ | ||
- | 急に視界が開け、先ほどの灼けるような痛みがなくなった。どこかで炎が上がっているのか、煙が立ち込めていることは確認できたが、漆黒の闇はもう消え失せていた。ふと両方の掌をなめるように見やると、溶けだされた水晶玉のかけら一粒もその場には残っていなかった。 | + | 急に視界が開け、先ほどの灼けるような痛みがなくなった。どこかで炎が上がっているのか、煙が立ち込めていることは確認できたが、漆黒の闇はもう消え失せていた。ふと両方の掌をなめるように見やると、溶けだされた水晶玉のかけら一粒もその場には残っていなかった。\\ |
そして、ぼくは、次にどうするべきか…思考を巡らせることが、できなくなっていた。それは放心状態とはまた違う、なんだか途轍もなく無に近い感情だった。 | そして、ぼくは、次にどうするべきか…思考を巡らせることが、できなくなっていた。それは放心状態とはまた違う、なんだか途轍もなく無に近い感情だった。 | ||